そんなことあるわけないでしょう、と君は言うけど。
それは本当?ほんとう?ホントウ?
絶対のぜったいのゼッタイ?
曖昧な頷きに切れない指。そんなモノにはもう飽き飽き。

だったらゼッタイにしてしまおう。
ぱさり。脱ぎ捨てた下着を適当に蹴り飛ばして、メアリーは後ろを振り返った。
「ねぇ。そろそろ準備いーい?」
返事は返らない。返るのはびくびくともがく衣ずれの音と、かすれた荒い吐息だけ。
目の前の寝台にはギャリーが寝かされていた。後ろ手をきつく縛られた状態で。
頬をシーツに擦りつけるしかできないギャリーは苦々しくメアリーを睨むけれど、それすらも時折ぎゅっと歪んで閉じる。衣服の乱れた彼の腰周りからは、機械の稼働音が途切れることなく続いていた。
ヴヴ、とその音が唸る度。
びくんっ、と細い肢体が跳ねてもがく。洩れそうになる声を奥歯で噛み殺し…はぁッ、と。荒い吐息を零すのだった。
「あははっ、ギャリーってばヘンな顔ー。おっもしろーい。」
「……ッメア…リ…ッ、く…!」
呻くようなうわずった声は、ますますメアリーを面白がらせるだけ。
けらけら笑うメアリーを睨みあげたギャリーは、驚いて目を瞠る。そしてさっと目を逸らした。まさかメアリーが一糸纏わぬ姿になってるとは思いもよらなかったのだろう。
「ッなんて…カッコしてんのよアンタッ…!」
「やっぱりギャリーってヘンなのー。自分がこーいうことされてるのにわたしの心配?」
メアリーはベッドへつかつかと歩み寄った。そして目を伏せるギャリーの顎を、強引に持ちあげる。空いた手でズボンのファスナー部分を撫ぜた。
「ッぅあ…!?」
「…ん。そろそろいいかなー。」
感慨なく呟いたメアリーは、馬乗りになってギャリーを押し倒す。力もうまく入らないギャリーの足から、容易く衣服が剥ぎ取られてしまった。
怯えに濡れるその目に反して、ギャリー自身は今にも弾けそうな程の硬度となっていた。その根元に結ばれた紐のせいで、吐き出せもせず。
メアリーはにそんなギャリーを、さして興味も無さそうに見下ろす。
馬乗りながらずるずると移動すると、ふいに自分の腰を持ちあげた。…ギャリー自身に、あてがうように。
「やッ…!」
いよいよ上ずるギャリーの声。青ざめた頬を冷たい汗が伝った。
「やめなさいメアリー…!アンタ、自分が何してるかわかって…!?」
「…うるさいなぁ。」
かちっ。メアリーがおもむろに手元のリモコンを操作する。
カウンタショックでも受けたように、ギャリーは目を見開いて背を反らした。
「あ゛っ…あぁあああああッッ!!!」
「ふふ、そっちの声は好きだなぁ。面白いんだもん。」
「ぁあッ、く…ッぅああ…!めあっ…メアリ…やめて…ッ!!」
「何を?ギャリーとセックスするのを?やめる訳ないじゃない。だって…。」
に、っこり。美しい金髪を揺らして悪魔は笑った。


「ゼッタイに、したいんだもん。」


『…イヴとアタシが付き合うですって?バカねぇ、そんなことあるわけないでしょう。』

本当かなぁ。ホントウかなぁ。時が経つ度、二人が立ち並ぶ度、その目と目が合う度、疑念が胸を焦がしていくの。
ねぇ。ニンゲンの世界では何人もの相手とセックスしたら『浮気』って言うんでしょ?
わるいことみたいだから、お人よしのギャリーはきっとできないね。

ねぇ。


ゼッタイに、イヴに触れないように、してあげる。



「…バカを…言わないで…ッ、あ…!」
喘ぎながら。呻きながら。拙く必死に紡ぐ言葉は。
「こんなバカに…アンタの身体…使って…どうすんのよ…ッ!」
驚いた事に、メアリーの身体を案じる台詞だった。メアリーがきょとんと目を瞠る。
(…何言ってんだろこの人。)
元々は絵画だったメアリー。外に出れさえすればそれでよくって、付随したヒトの身体に価値なんて感じない。ましてギャリーが案じるような"大事にしてない"という概念は、メアリーにはわからない。
よくわかんないなぁ。やっぱりギャリーってヘンだなぁ。
ヘンなの。ヘンなの。そう笑い飛ばそうとするけれど。

なんでだろう。胸に何かが黒く焦げついて、苛々する。

「………うるさい、ってば。」
がッ。その素足でギャリー自身を、思いっきり踏みつけた。
「ッッあ゛…!!」
「もういいよ。黙っててよ。それか鳴いてて。その方がよっぽどマシ。」
無表情でそう言い切ったメアリーは、また笑顔の仮面をかぶり直した。

「…ま、いっか。」
そんなヘンでお人よしなギャリーだから、こんなくだらない理由でイヴから離れてくれるんだもんね。
ライバルのいなくなる想い人を想うと、黒い焦げつきなんてどこかに吹き飛んだ。代わりに胸を満たすのは、シロップみたいにあまぁい幸福感。
「ねぇ、ギャリー。」
紐を、解く。メアリーは腰を持ち上げ、ギャリーへと。

「イヴは、ゼッタイに、あげないよ。」




魔 と の


(楔を打とう。深く、深く。)

fin.