「あれ?ギャリー?」
自宅にお邪魔してみると、なんだかギャリーの様子がいつもと違った。あらぁ?と間延びした声が返る。
「イヴじゃなぁい、いらっしゃーい。やーねぇ、インターホンぐらい鳴らしてよぉー。」
「だってドア開いてたから。」
「あら。アタシってば閉め忘れてたかしらぁ。うふふ、ごめんなさいねぇ。」
そう言って、へにゃ、と笑うギャリーはほんのり目じりが赤い。
よく見るとその手にはグラスが包まれていた。中身は透き通ったピンク色で、ぷつぷつ泡が浮いている。
「ギャリー、それお酒?」
「ぴーんぽーん!すごいわねぇイヴ、よく知っているわねぇー。」
わしゃわしゃ、撫でる手はいつもよりちょっぴりべたついてる。うっすらと汗の匂い。
「安くしてくれるって言うから、友達のバイト先でついね。甘くておいしいからつい進んじゃうのよぉー。」
酔っ払いでごめんなさいねぇー。ソファの背もたれへ、溶けるようにもたれかかる。
ちょいちょいと手招きするギャリーに惹き寄せられて、イヴは隣にちょこんと座った。


「…って言うのよぉー!ホントもー信じらんない、なんでそこまでされてまだ付き合おうと思えるのかしら。ねぇー?」
酔ったギャリーはいつも以上に饒舌だった。けらけらよく笑ってよく喋る。
「イヴはそんな男にひっかかるような女になっちゃダメよ?女の子はね、大事に大事にしてもらわなきゃ枯れちゃうのよ。」
特に恋バナになるとペースもアップ。笑ったりうっとりしたりマジメになったり。ころころ表情変わるなぁ。なんだか物珍しくてイヴは飽きずに見ていた。
普段と大差ないと言えばないんだけど。イヴはこっそりと視線を滑らせる。
赤みは目尻に留まらず、首や肩にも広がっていた。タンクトップ姿だからよく目立つ。
とろけた声にふにゃふにゃの呂律で、話す言葉全部が甘ったるい。
潤んでぼんやりした瞳が、へにゃりと微笑んでイヴを見ていた。
時々思い出したようにグラスへ目を落とし、ゆっくりと口元に運んだ。綺麗な桃色の液体がギャリーの唇へ滑り込んでいく。
ふぅ、とアルコールの香る吐息。ほんのりと濡れる唇。…なんだか恥ずかしくなってイヴは目をそらした。
でも。どきどき、妙に早くなってしまう胸を押さえてイヴはギャリーを盗み見た。
目をそらしちゃうけど、目が離せない。お酒飲んだギャリーって、こんな感じなんだ…なんだかイヴまで頬が熱くなってくる。
「ん?なぁにー?どうしたの?」
いきなりひょいっと覗きこんできたギャリーにイヴはのけぞった。
「わっ。な、なんでもない…よ。」
「あらヤダ、イヴ顔真っ赤よー?この部屋暑いかしら。うふふーでもイヴかーわーいー。」
脈絡なくギャリーが抱きついてくる。甘ったるいアルコールの匂いが濃くなった。
「わっ、わ…えと、あつくない。し、かわいくない。」
「何言ってるのーイヴは可愛いわよぉ!あーもー可愛い可愛い可愛い、イヴはほんっとちっちゃくて良い子でかーわーいー!」
とろとろに溶けた甘ったるい声で、そんな台詞ばかり繰り返す。
そんなギャリーに、なんだかじれったいような気持ちを覚えて…む、とイヴは唇を尖らせた。
「…ちがう。」
「もー、コドモが謙遜なんかするもんじゃ」
「可愛いのは、」
ぐ、と両手でギャリーの頬を捉えて、ぐいっと顔を近付けた。

「可愛いのは、ギャリーだよ。」

今にも唇が触れそうな、触れてない距離で。
ひどく真剣な顔のイヴにギャリーは目を瞠った。
「……な、」
一拍遅れて、ぼっと顔が火照る。ようやくたどたどしく返事を吐いた。
「………大人を、からかわないで、ちょうだい、よ。」
「からかってない。だってギャリーが可愛いんだもん。いつも可愛いけどお酒飲んだらもっと」
「っあーーーーーストップ!ストップ!もーいいからもーいいから!!」
片手で覆ったギャリーの顔は、さっきに輪をかけて赤かった。

「…アンタって子は…酔いも醒めちゃったわよもう…。」
「…もっと飲む?」
「飲まないわよっ!」







(酔いは醒めたのに、火照りは冷めない。)

fin.



***

タイトルはカクテルの名前から。
青いカクテルでいいのないかなぁーと探したらなにこれめっちゃギャリーちゃん色。