「お前ってさぁ…。」
日曜日。物置きの大掃除を手伝っていると、ふと浮かんだ疑問が口をついた。
「エロ本とか隠してないの。」
「は?」
「あんまりにも何もないから違和感、というかつまらん。」
「何を密かに探してんですかナニを。そりゃ昔は多少ありましたけど、今はないです。どれ見ても勃たなくなっちゃって。」
あんなの勃たなきゃただのゴミでしょう、と軽く言い放つゲンを見て
何故だろう、薄らと背筋が寒くなった。
それを自然に振り払いたくて、屈めていた腰を伸ばしとんとんと叩く。
「っこらしょっと…大分片付いたか。こんなもんだろ。」
「そうですね。はー埃まみれだ…シャワーでも浴びようかな。」
「あ、わたしも浴びる。」
そんで、とわたしは続ける。
「浴びたらセックスしよ。」
「うぇ!?こんだけ動いた後にヤるとかどんだけ底なしなの体力!」
「あっそ。じゃーひよわなゲン君には今晩もあげなーい。」
「滅相もございませんヤらせろヤらせてください掃除とかなかった。」
…わかりやすい。内心くすくす笑いながら先にシャワーを頂いた。
ぶんぶんと欲望に尻尾を振る様は、いかにも若いオトコノコって感じなのに。
若い女の裸体への、酷く無関心なゲンの目が、瞼から消えない。





指先を、手の甲を、首を、鎖骨を、胸を、臍を、太ももを、足裏を。
ゲンはくまなく、キスして回るのが好きだ。
この時間はいつもじれったい。こそばゆくてむずむずする。
「…慣らしてさっさとつっこめってんだろこの馬鹿。」
「ごめんなさい。だって、」
形のいい唇が、わたしの性器に触れた。
「きれい。」
鳥肌が立った。何言ってんだコイツ。しかし冗談ではないことをすぐに思い知ってしまう。百人が百人綺麗と言うだろうその顔が、私の股の間にうずまる瞬間、うっとりと細められた目を見てしまった。
ぞっとした。グロテスク、だ。
思わず逃げそうになった腰を、雪のように白い手が優しく捕えた。
「トウガンさんかわい…綺麗…。」
零れる声は熱に浮かされている。
嬉しそうに美味しそうに、わたしを啄んでいく綺麗な男。綺麗なのはお前の方だ。もっと綺麗なものを愛でるのがお似合いな美しい男。
どうして、わたしなの。
浴びせられる愛情が、心地よくて、後ろめたい。
「好き。大好き。トウガンさん。」
唇に吸いつかれた。たっぷり時間をかけてうまそうに舐めつくす。それが離れていく刹那、欲に蕩けきった青い目をまじまじと見つめた。太ももに触れるゲン自身は、はちきれんばかりに硬くなっていた。
『どれ見ても勃たなくなっちゃって。』
その一言を、思い出す。

可哀想な男。
わたしには、彼が呪われているようにしか見えなかった。




Ut miser est homo qui amat!


(恋する男は何とみじめなことだろう!

fin.




***

お題拝借元:戯曲様
(リンクが死んでいたのでお名前だけ)