「ふぁっ、ちょっ待っ…ッあ…!」
ふざけるな、一刻たりとも待ってられるか。暴れる白い身体を押し倒し、それでも従順にわたしを待つその肉棒に喰らいついた。
「こっちの台詞だ。わたしが足りるまで我慢しやがれよ早漏野郎…!」
そのまま狂ったように腰を振った。
うぁっだの情けない声をあげて敷かれたゲンの身体は跳ねる。その様子を楽しむ時もたまにはあるが、大概わたしにそんな余裕はない。
呼吸するのも忘れるほどに腰を、身体を、叩きつける。まだ、もっと、もっと。いつしか快楽の享受すら忘れていく。
動かずにはいられない。蹂躙せずにはいられない。欲情、とは呼びがたい、皮膚が粟立つような何かに駆り立てられる。
もっと奥に。もっと、もっと、奥に。
彼をもっと。彼をもっと、もっと、もっと。
「っ…あぁあ!!」
「…ッ」
弓のように反った白い胸。吹きあがった熱が内側を滑る。かすかに脈動する自分の身体に少し驚く。意外だ、もうイってたのか。
我ながら他人事のように呟いて、トウガンはひとつ息をついた。身体は尽き果てた倦怠感にぐったりと重く、つないだ所が今更じくじく不平を言う。
なのに、おかしいな。妙に光る目でトウガンはゲンを見降ろした。
胃だけが一人、まだまだ足りないと牙を研ぐ。


「こんの…エロ親父…僕も生きた人間なんですよわかってます…?」
処理機のように扱われたゲンは大層不満そうだ。まぁ確かに状況的にはその抗議も尤も。なのでトウガンは珍しくフォローをしてやる。
「ああわかってるさ、生きた人間だよ。死体は勃たないからな。」
「ちょっと!待ってください僕の生の価値それだけですか!?」
うるせぇやつだ。人がせっかく仏心を出してやったと言うのに。
煩わしそうにトウガンはゲンを背にした。何度あれやこれやで汚したかわからない、おなじみの布団で二人並んで寝ころんでいる。
白い腕が首に絡みついた。…まぁ、予想済み。
「そんなにお望みなら僕だってどんどんいただいちゃいますよ…?待てなんてしませんからね。」
「は、んな砕けた腰で何ができるってんだ早漏野郎。」
「また言いましたね人が気にしていることを!大体砕いたのアンタでしょ!」
「所詮その程度か。てんで使い物にならんな。」
「…このやろ…。」
語調こそ刃向っているものの、声にはさっぱり元気がなかった。結構傷ついたらしい。いいザマだ、ちょっとでも甘やかすと調子乗るからな。
腕からも力が抜けていった。だらりと腕がほどけそうになる。
その腕を、トウガンの腕が押さえた。
「…あれ?」
トウガンさん?と呼びかけても返事はない。トウガンの両腕は相変わらずゲンの腕をぎゅっと抱きしめている。
デレセンサー、スイッチオン。可愛いなぁとハートを飛ばしてゲンはトウガンを思いきり抱きしめた。

(…ぬるい…。)
抱きしめられたトウガンは抵抗せずそんなことを思っていた。皮膚を通して感じるゲンの体温。それがひどく生ぬるい。
もどかしくなってゲンへと寝返り、その胴に抱きついてみる。ゲンは驚いたけど知ったことじゃない。
(…やっぱり、ぬるい…。)
抱きしめど、抱きしめど、得られる熱はほんのわずか。とくとくと鳴る彼の心音すら遠い世界の音だった。
ふと思いついて、力の限り抱きしめてみる。
「いだだだだだだだっっ、トウガンさん折れる折れる肋骨!!」
ゲンの悲鳴は無視。
やはり無駄、だった。どれほど自分とゲンを押し付けあってみても、温度はぬるく心音は遠い。
ゲンの熱があって、ゲンの皮膚があって、わたしの皮膚があって、わたしがある。
膜と膜の反作用。不変の壁。そう、近づけない。
「ちょ、何してるんですかトウガンさ…んっ…!?」
ゲンの言葉が遮られた。当然だ、その口に舌をねじ込んでいるのだから。
そこには皮膚という障害はない、中身と中身。さっきよりは熱い温度を貪るように味わう。
けど、それでもまだぬるい。むしろ半端に温度が高いせいで焦れた欲求が目を覚ます。
脳裏によぎるのは、ゲンを銜え込み貪ったあの、熱さ。
「…なぁゲン。」
「なんです?」
「セックスしようか。」
「……少しはオブラートに包んでください。」
下半身野郎が何を言ってやがる、と蹴飛ばしたゲン自身は十分硬かった。反論の余地もない。
涙目のゲンを鼻で笑って跳ね付ける。実のところは、ゲンに向けた嘲笑ではなかったのだけど。
つくづく愚かしい生き物だよ、わたしは。
本当は気づいてる。擬似的な捕食じゃもう満たされないのだと。



な オ ー ヴ ェ ム


(膜を破って、ひとつになれたら。)


fin.