リィンフォーサー 主要人物 エスタ・リーガン(17)…主人公。世界中でも数少ない「鎧剣使い(リィンフォーサー)」の素質を持っている。 エイブラハム・ノキス(32)…「鎧剣使い」の一人。断罪官として多くの犯罪者を葬っている。 アルナ・レット(15)…エスタの幼馴染で町長の娘。エスタに好意を抱くも、中々素直になれないでいる。 パック・レット(17)…アルナの兄。エスタとは親友で、よく大きな仕事を見つけては回している。 レアード・ブルネーゼ(27)…世界政府の若きエリート断罪官。エイブラハムの相棒。 アスター・ローンド(37)…? 前回までのあらすじ 犯罪者を追っているという触れ込みでペレトンに進入したエイブラハムと、全てを知った上で彼を罠にハメようとする町の住人達。 狐と狸の化かし合いは、異能の前に簡単に終わってしまう。 そして愛する人(主人公)との再会と同時に永遠の離別を成してしまったお嬢様。 全てを失った異能者の英雄と、全ての邪魔を排除した異能者の蛮勇。 戦いの火蓋は切って落とされた… と、かなりの急展開を見せた前回&前々回。 此のまま壮絶なるバトルで第一部完了で御座います。 御閲覧して頂きました皆様、心より感謝致します… 其れでは最終章、どうぞ! パキパキパキ… ピキピキピキ… 最悪の場面でついに出会ってしまった二人の異能者の剣は、揃って結晶を纏い、今にも襲い掛からんとしている。 「貴様がアルナを…そして皆を!町を!」 「ったく…どうしてどいつもこいつも邪魔ばっかすんのかなァ…?いい加減うぜェんだよォ!!」 「ンだと…?アルナが何をした!?町の皆が何をしたってんだ!?てめえ…断罪官が何やってんだよ!!」 返り血でどす黒く変色しているが、エスタの目に映っている男の衣装は断罪官の制服だ。 黒十字だけが変色せずに残っているので直ぐに分かる。 「あんなァ…断罪官だからこんな事してんだよ!俺は断罪官様なんだからなァ!」 興奮が酷く、訳の分からない事を叫ぶ狂気の断罪官、エイブラハム・ノキス。 其れを鋭い目付きで見据えるペレトンの英雄、エスタ・リーガン。 会話はもう通じない… そう判断したエスタは、一息の深呼吸をすると、長剣の切っ先を相手に向けた。 「ああ!?お前…フヒャヒャ!お前も俺と一緒か!こりゃあいいぜ!傑作だ!アヒャヒャヒャアアア!!」 「貴様は…殺す!俺の全てを懸けて…!!」 「おもしれェ!全力で殺すぜ!?バラバラになァ!死ぬんだぜ!?フヘヘ…グフ…グフフ…アーヒャッヒャッヒャ!」 片方は完全に狂っている事もあってさっぱり話は噛み合っていないが、兎に角戦いの始まりだ。 エスタは一気に距離を詰め、結晶で完全に覆われた長剣で斬りかかる! ギャリギャリ… 素早く受け止めたエイブラハムの大剣の鎧剣(リィンフォース)と、直も力を入れて斬ろうとするエスタの其れとがぶつかり合い、不気味な 音を立てた。 「おいおい…こんなんで俺を殺す気だったのかァ!?甘ェなァ!!」 「!?」 エイブラハムが一薙ぎしただけで、エスタは簡単に吹き飛ばされてしまった。 しかも鎧剣も消滅してしまっている。 「くっ…力が違ぇ…」 同じ鎧剣使い(リィンフォーサー)でも、やはりエイブラハムの方が強かった。 伊達に此の辺りで一番の断罪官と言われているだけはある。 それにエスタは能力を隠しながら生きてきた分、鎧剣を完全に使いこなせていない。 端から見れば異能者同士、互角の戦いと思うが、実際は経験に大きな差が有り、完全にエイブラハムが有利なのだ。 「どうしたよ?もう終わりか?ヘヘ…なら俺からいくぜェ!!」 大剣を大きく振り上げ、鎧剣を大量に発生させるエイブラハム。 其れはエスタも良く知る能力の応用技の前触れだった。 「…来る!」 振り下ろしと同時に無数の結晶がエスタ目掛けて飛ぶ! 以前にティーブの群れにエスタが放った「ガン」呼ばれる技だ。 高純度の魔力結晶は触れただけで破裂し、対象を粉々に吹き飛ばす…当たれば命は無い! 「うおおお!!」 結晶を大きな盾の様に展開し、防ぐエスタ。 「シールド」の技だ。 「未だだ…食らいやがれ!」 さらにエスタは其のまま突撃!鎧剣の盾をエイブラハムに放つ! 「ほお…面白い事するじゃねェか!だがなァ!!」 巨大な結晶の盾を、自らの結晶の剣で簡単に切り裂いてしまうエイブラハム。 圧倒的な力の差であった。 「ならば…こうだ!」 エスタは鎧剣を展開!剣に纏わせると一気に突撃した! 「は!一回やって失敗したのが分かんねェみたいだなァ!?バカは死ねやァ!!」 「ンなワケねえだろぉ!!」 振り下ろされたエイブラハムの一撃を鎧剣を軸にして真横に躱し、素早くガンに切り替えるエスタ。 至近距離での攻撃がエイブラハムに回避の暇を与えさせず、一挙に襲い掛かる! 「うおお!?」 思わぬ不意打ちに、流石の熟練断罪官も吹き飛んだ。 「ぐっ…俺に傷を負わせるとは…ブッ殺してやるゥ!!殺す!殺す!絶対に殺す!!」 唯でさえ狂っていたエイブラハムであったが、完全にキレた様だ。 「ちっ…アレでも怪我程度かよ!バケモノめ…」 「グァオアアアアアア!!」 エイブラハムは獣の様な唸り声を上げ、大剣を勢い良く地面に突き立てた! 同時に大地が隆起し、何かがエスタ目掛けて高速で迫る! 「此れは…クソ!」 危機を察し、素早く飛び退いたエスタだが、地中の其れは何時の間にか真下まで来ていた。 「何!?間に合え…!!」 大地を突き破り、現れた其れ…巨大な鎧剣をシールドを展開して防ごうとするエスタ。 ギャリギャリギャリ… 鎧剣同士がぶつかり合った時のあの嫌な音が響く。 「…やばい!!」 防ぎ切るかと思えたエスタのシールドだが、皹が入った! 「ぐおおおおお!!」 吹き飛ぶエスタ。 「まだだァ!!ミンチにしてやるゥ!!」 尚も追い討ちをかけるエイブラハム。 展開された鎧剣は、剣に纏わせるという最も初歩の技であったが、其れの大きさは常軌をさらに逸していた。 「ガアアアアア!!」 血管の浮き上がった太い腕で倒れたエスタ目掛け、大剣を振り下ろす! 「!?」 其の恐るべき一撃で、エスタの居た辺りに大きな亀裂が入ったが、肝心のエスタが消えてしまった。 「…?粉々になっちまったかァ…ってンなワケねェだろォ!!何処だァ!?クソガキャァ!!」 「はぁ…!はぁ…!」 エスタはやや離れた位置に立っていた。 息は切れているが、傷はあまり無い様だ。 「あァ!?最初の一撃のダメージすらねェだとォ!?何やりやがったァ!!」 「はぁ…!一々…うるせえなあ…!ちょっと能力を応用しただけだっつの…!」 「あァ!?」 エイブラハムは興奮のし過ぎな事もあり、全く理解出来ていないが、真実はこうだ。 エスタは、展開した鎧剣(シールド)が破られそうに成った時に結晶を破裂させ、其の反動でダメージを減らしたのだった。 鎧剣という能力は不思議なモノで、能力者の意思が強く反映される。 相手だけを砕き、自らは守る。 基本的に其の意思が働き、至近距離での爆発でも、能力者本人にはほとんどダメージが来ない。 エイブラハムの渾身の一撃を避けた時も、エスタは其の特性を活かし、生き延びたのである! 「(どうする…避けるのはどうにか成るにしても、俺の攻撃がほとんど弾かれちゃ意味が無え!何か…せめて一撃加えられれば…!!)」 膠着する二人の異能者。 周囲の瓦礫が崩れる音だけが響く一時の静寂。 互いに鎧剣を消し、剣を構えたまま、相手の出方を伺っている。 「どうしたァ…来いやァ…」 「へっ…てめえこそさっきまでの勢いがねえみたいだが?」 「(ちっくしょお…あのクソガキ何をやったんだよォ…次はやべェ気がするしな…)」 「(何か手は?何か…)」 二人とも、表面上はあくまで強気、内ではそうとう焦っている。 静寂が続く事五分、ついに二人は動き出した! 「…!!」 無言で鎧剣も無しで突撃するエスタ。 切っ先を真っ直ぐにエイブラハムに向け、一直線に走る! 「何ィ…?何を考えてやがンだァ…?」 不思議に思いながらとりあえず剣を弾いてみると、あっさりと後ろに下がる。 そんな敵の理解し難い行動に、狂気の男は混乱した。 自分の攻撃を不可思議な方法で脱した男が相手なのだ。 何を仕掛けてくるかが待ったく分からないという恐怖が、百戦錬磨の悪鬼に芽生え始めたのだろう。 「俺が!?恐れているのかァ!?あんなザコに!あんなガキに!」 「…!!」 尚も無言で素剣を振るエスタ。 四、五回繰り返した頃、彼の目付きが変わり始めた。 鋭くエイブラハムを睨み付け、右手の長剣に力を籠める! 「む!?」 「てめえの弱点が分かった!此れをくらえ!」 至近距離で長剣に鎧剣を発生させ、斬りかかる…様に見せかけ、地面に刺し、軸にして回転!背後から短剣を突き刺した! 「ぐおう!!」 完全に意表を突いた一撃は、かなり効いた様だ。 「さっき、何回か斬りかかって分かった!てめえの一撃は確かに早えし強え!だけどなあ、一発屋なんだよ!フェイントで躱せば簡単に一  撃入れられるくらいにな!」 「クソがァ…だったら俺にだって手ぐらいあンだよォ!!」 今度はエイブラハムが攻める! 地面に剣を突き立て、力を籠める…あの攻撃だ。 「(アレは速いから避けらんねえ…でもな、同じ手は二度と食わねえんだよ!)」 「うおおおお!!」 走り出すエスタ、うろたえるエイブラハム。 「其の技は剣を使えなくなる!接近すれば意味が無えんだよ!くらえ!!」 「チィ!のヤロウ!!」 無理矢理地中に走らせた鎧剣を持ち上げようとするエイブラハムであったが、エスタの攻撃の方が速かった! 「ぐおおおお!!!」 正面から斬られ、崩れる狂気の大男。 今のはかなりの痛手の筈だ、流石の異能断罪官でも平気で居られはしまい。 「ぐっふ…クソがァ…」 かなり苦しそうな狂気の断罪官。 勝負はもう決まった様にしか見えない。 「どうだ…!!もう…降参しろ…!」 「…」 「…?諦めたか…いや、注意はしなきゃな…」 突如黙り、顔を俯いたままのエイブラハムに少しずつ接近するエスタ。 相手は自分の都合で町を滅ぼす程の危険人物だ、安心は出来ない。 「…ククク。」 「…?」 「…俺が…クク…負けた…クカカ…戦いしか無ェ俺が…クカカカカ…」 「(壊れたか?まあ…元々別の意味で壊れてたが…どうする?)」 負けは認めているみたいではあるし、此れ以上やるのもどうかと思い、エスタは剣を下ろした。 其の瞬間を狙って来るかと少し心配したが、エイブラハムは相変わらず不気味に笑っているだけだった。 「(終わった…か…)」 そう思い、振り返った瞬間であった! 「アヒャァ!!シィィィネェェェヤァァァ!!!!!!」 エイブラハムが起き上がり、目の焦点の合っていない狂った顔で襲い掛かってきた! 「しまっ…」 「グギャアアアアアア!!!」 絶体絶命と思われた其の時、血飛沫を上げてエイブラハムが倒れた。 大剣がガランと音を立てて落ち、凶器の男はもうピクリとも動かなかった… 「…え?」 エスタではない、誰かがやったのだ。 脳天に剣を刺して狂った表情のまま死んでいる男を尻目に、エスタは全方位を確認する。 …が、ぱっと見は誰も見当たらない。 「…誰だ?」 「俺さ。」 「!?」 不意に背後から低い声が聞こえた。 振り向くと、ニコニコと笑みを浮かべている男が立っていた。 何時の間にか背後を取っていた事からも、只者で無い事は確かだ。 「誰だ?あんたは…」 「俺か?まあ敵じゃあ無いから安心しな。ちょっと危ないと思ってやっちまったが…迷惑だったか?」 「いや…助かった。感謝するよ。」 「はっはっは、油断大敵だぜ?」 飄飄とした其の男は、またも何時の間にか消えた。 「何だったんだ…ん?」 混乱が覚めないエスタの目に、人影が映った。 見覚えのある長髪の男、エスタが病院に運んだ断罪官だ。 さらに後ろから数人の役人らしき集団が次々と姿を見せる。 「酷えなこりゃ…お、おい!お前!」 「俺…だよな?はい…」 「お前、エスタ・リーガンか?」 「はあ…そうっスけど…」 「まずは助けてくれて感謝する。俺はレアード・ブルネーゼ、其処に転がっているエイブラハム・ノキスと組んでいた断罪官だ。」 「ども…」 「此のバカが何かやらかしそうだったから応急処置だけ受けて急いで来たんだが…遅かったみたいだな。」 政府の役人だけが受けられる最先端の治療で、とりあえずの回復だけを済ませたレアードは、部下を呼んで応援に駆けつけたのだ。 「おい、町中を捜索して生き残りを探せ!急げよ!」 「はっ!」 レアードの一声で彼の部下達が町中に散った。 彼はそっとエスタに近付くと、耳元で囁いた。 「お前…鎧剣使いだろ?」 「う…どうして分かったスか…」 「並の人間がエイブに勝てるかよ…しかしまあ、鎧剣使いだとしてもすげえな、あいつを殺るなんて。」 「いや…其の…まあいいや、たまたまっスよ。」 「まあ運も実力の内だ…さて、鎧剣使いは政府に所属するべきだという事は知っているな?」 レアードの顔付きが厳しく成った。 やはり其処は突付かれる…分かっていた事だ。 「はい…知ってます。」 「フリーの鎧剣使いってのは法律上、許されちゃあいないからな。本来なら俺はお前を拘束し、連れ帰らなくちゃいけない。」 「…本来?」 レアードはそっぽを向いている。 「…ふう、お前は俺の命の恩人だからな。まあ、その…何だ、お前の鎧剣を誰かが直接見てた訳じゃあないしな。」 「それって詰まり…」 「まあ何だ!気付かなかった事にもしてやれる!出来ればお前強いし、俺と来て欲しいが、嫌なら無理強いはしない。どうだ?」 「え?ええと…まあ、家も町も仲間も全滅してるし…別に行っても…」 「おっと、そいつは俺が連れてくんだ。」 あの声がまたも不意に聞こえた。 さっきの男だ。 気付くと何時の間にかエスタの横でタバコを吹かしている。 「貴様…何処から現れた!?」 レアードも気付かない内に現れた様だ。 やはり只者ではない。 「まあ落ち着きな、断罪官の兄ちゃん。自分が気付かなかっただけだろ?そんな警戒すんなよ…」 「何者だ?貴様…そいつは異能者だぞ?」 「知ってらあ。だからこそ俺も欲しいんだ。こいつがな。」 「勝手を抜かすな。たった今、俺と行く事が決ま…」 「ってねえよな?未だ。」 「…」 呆然とするエスタの両脇で、勝手に話が進んでいる。 「おい!勝手に俺抜きで話を進め…」 「なあ、ボウズ!俺は何でも屋をやってるアスター・ローンドって言うんだ!ボウズが普段やってきた事と変わらんぞ。どうだ?」 「いや、エスタ、俺と来るんだよな?さっきそう言うんだったんだろ?な?」 「俺は…」 「俺と来るよな!?」 「いや、俺とだよな!?」 エスタの発言する暇が無い。 二人とも自分の事を考えるあまり、我を忘れている。 「いい加減にしろよ!此の町の状況分かってんのかよ!…一人にしてくれ。」 「…すまん。」 二人同時に謝る。 そうだ。 今、自分の育った町は崩壊し、親しい者は皆死んでしまったのだ。 そんなエスタの事をつい忘れてしまった二人の男は、互いの肩を叩いて静かに其の場を去った… ―十日後。 ペレトンの生き残りは結局居なかった。 一人残らずエイブラハムに虐殺されてしまった様だ。 政府に依って町民達は全員、懇ろに弔われ、エイブラハム・ノキスの死体も回収された。 そしてエスタは… 「すいません!遅れました!!」 「ははは、気にすんな!さ、行くぞ!」 「ういっす!」 結局、政府は合わないと思い、アスターに付いて行く事にした。 一切の気配を感じさせずに背後に回った、あの衝撃に強く惹かれたのだ。 レアードは無理強いしないと言っていた通りに、あっさりと諦めてくれた。 こうしてフリーの異能者、エスタ・リーガンは、ローンド何でも屋の一員と成った! 此れから彼が、どんな出会いをし、どんな活躍をするのか? 其れはまた、別の話なのだ… 照り付ける太陽の下、腰にブレスレットをぶら下げた若者は、広い世界に向かって歩き始めた… リィンフォーサー、完