リィンフォーサー 主要人物 エスタ・リーガン(17)…主人公。世界中でも数少ない「鎧剣使い(リィンフォーサー)」の素質を持っている。 エイブラハム・ノキス(32)…「鎧剣使い」の一人。断罪官として多くの犯罪者を葬っている。 アルナ・レット(15)…エスタの幼馴染で町長の娘。エスタに好意を抱くも、中々素直になれないでいる。 パック・レット(17)…アルナの兄。エスタとは親友で、よく大きな仕事を見つけては回している。 レアード・ブルネーゼ(27)…世界政府の若きエリート断罪官。エイブラハムの相棒。 アスター・ローンド(37)…? 前回までのあらすじ 一人悩むお嬢様は、訪れた廃墟で罪の始終を見てしまう。 必死で町まで逃げた彼女だが!? 一方、出番の少なかった英雄はと言えば、大金片手にニヤニヤ。 すっかり浮かれて小便すれば、待っていたのは瀕死の男。 しかもごく僅かの会話からすれば、故郷が危ないらしい! 親友、幼馴染、其の他多くの町民を救う為、ひた走るペレトンの英雄… 其れでは本編をどうぞ… 「な…!?」 通常五時間かかる距離を、必死で三時間で走り、ペレトンまで辿り着いたエスタを待っていたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。 町中が真っ赤に染まり、道は人々の死体で覆われている。 小さめとは言え、「町」レベルのペレトンの住民はたった一人に皆殺しにされた。 「一体…何が…う、うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」 ―三時間前 「はあ…!はあ…!」 「ん?あれ、アルナ嬢ちゃんじゃねえか?」 「あー…本当だな。」 何も知らない町民達は呑気なものだった。 「はは!ちょっと町を出て獣にでも追いかけられたか?はは…んぐっ!?」 「た…助けて!!お願い!!」 必死で町民の男を掴み、訴えるアルナ。 其のあまりの必死さに、人々の顔も真剣に成り始めた。 「落ち着いて!手を離して!何があったんですかい?ゆっくり話して下さいよ。」 「お、落ち着いてなんて居られないわ!悪魔が!悪魔が来るのよ!私…殺されちゃう!」 「おい!誰かパックさん呼んでこい!此の侭じゃ話に成らねえ!」 「お、おう!」 最初に掴み掛かられた男が素早く指示を出し、完全にパニック状態のアルナを落ち着かせようとする。 しばらくしてパックが駆け付け、ようやくアルナも落ち着き始めた。 ゆっくりと、自分の見た物全てを話すアルナ。 騒ぎ出す町民。 頭を抱えるパック。 初めは誰もが半信半疑であったが、場所、人物等、特定出来る名前が幾つも出て来ると、信憑性は嫌でも高まった。 誰もが互いに相談を始め、次第に皆も混乱してきた。 「どうしよう…私、一応逃げ切ったけれど…もしも見つかったら!」 「落ち着け、アルナ…とりあえず話は信じる。だが、そうと成ると色々大変だぞ…」 「パックさん!エイブラハムって言やあ、此処等の断罪官でも一番有名な奴ですぜ!?どうします!?」 「皆も落ち着くんだ!未だアルナがペレトンの住民だとは気付かれちゃいないハズだ。ならば、アルナを一旦何処か隠れさせ、もしそいつ  が来たら、みんなで知らん振りをすれば良い!こんな時、そうも混乱してたらバレちまうぞ!」 パックは町長代理に恥じない威厳ある態度で皆を静めた。 そして、作戦会議を急いで開く事に成った… 「いいか?エイブラハムが来ても、皆何時も通りに過ごすんだ。妙に余所余所しくしたら、殺気立っているであろう奴が何をするか分から  ない。あくまで平静を装い、奴が言う通りにするんだ!いいな?」 「はい!」 集った町の代表者達が一斉に叫ぶ。 まるで何処かの軍事国家の様だ(今の此の世界にはそんなものは無いが)。 「一応警戒の為、腕の立つ奴を集めて、町中に配置する。エイブラハムが何らかで暴れたりした場合、即刻奴を殺す!」 「しかし…仮に殺したとして、其れはまずくないですか?罪人とは言え、相手は断罪官。政府に何と言われるか…」 気の弱そうな男が言う。 「其れなら大丈夫だ。奴の罪を全て報告すれば、きっと分かってくれる。政府の中心の連中は其処までバカはないさ。」 「はあ…では早速見張りを集めますか。弓の扱いの上手い者を集めましょう。」 パックの冷静且つ迅速な対応に、誰もが動き出した。 そして、其の男はやって来た… 「…此処しか考えられんよな?フ…フフ…殺してやる!此処まで来たら、秘密を知った奴等を何人でも殺してやる!」 気を落ち着け、狂気の男はペレトンへと足を踏み入れた。 「適当に…おい、其処の君。」 「へ?俺っすか?」 入り口近くに居た若い男は答えた。 「ああ、君だ。私は政府の者なのだが、此方の方に厄介な犯罪者が逃げてしまってね、探しているんだ。」 「あ、断罪官様ですか!それは大変だ!町長をお呼びしますか!?」 「うむ、頼む。」 「は、はい!急いで行ってきます!」 若者は全速力で走っていった…全て演技だが。 「よし…未だ広まっていない様だな…後は代表を適当に誤魔化して、あの小娘を探すチャンスを得なければ…」 未だ自らの悪事が広まっていない(と思っている)今の内に、アルナを見つけて殺さねばならない。 其の目的を出来るだけ早く達成するには、町民を混乱させずに、堂々と探せるという状況が必要だ。 下手に騒ぎに成れば色々と面倒だ。 其の為、予め自分が町中を探すという事を知らせておかなければならないし、其の情報を聞いて標的が逃げ出さぬ様、町の入り口を自然に 封じさせる事も必須だ。 代表を上手く操れば、それくらい簡単だ。 話術には自身が有るし、此の作戦なら確実に殺せる。 エイブラハムの脳内は、自分の悪事が広まっていない事を前提に、完全な計画を立てていた。 「すみません!お待たせしました!」 「クク…っとお、おう。貴方が此の町の代表ですかな?」 脳内で妄想をしていたエイブラハムに、突如声が掛けられた。 パックがやって来たのだ。 「ええ、現町長の父が病に臥せっていますので、息子の私が臨時の町長代理を務めております。」 「そうか、其れは大変だな…うむ、其れで話なのだが…」 「ええ、伺っております。何でも凶悪な犯罪者が此の町に逃げ込んだとか…」 「そうなのです!其処で私が町中を探しますので、騒ぎに成らん様に皆に此の話を広めて貰いたい。そして、もし万が一此の話が奴に聞か  れているとまずいので、町の入り口を封鎖して頂きたいのだが…頼めるかな?」 「はい、直ぐに通達しましょう!おい、ルース!アントン!カフ!話は聞いての通りだ!急げ!」 「は、はい!」 あくまで政府役人らしい毅然とした態度を装うエイブラハム。 そして其の心の内を分かっていながら、演技に付き合う町民達。 まるで狐と狸だが、町民は全てを知っており、エイブラハムは何も気付いていない現地点では町民が有利だ。 パックは内心、自分の思った通りに事が進んで自信を持ち始めた。 此の侭行けば、もしかしたら自分達は手柄を立て、英雄に成れるかもしれない…そんな考えまで浮かんできた。 10分で準備は完了した。 元々ある程度の仕込みが済んでいたからこその早さであったが、エイブラハムは早くアルナを殺したい気持ちで一杯であったからか、少し も不安に思わずに、唯、感心だけしていた。 「さあ、早く見つけて下さい!お願いします、断罪官様!」 尤もらしく言い、即座に撤退するパック達。 居たら居たで面倒だと思っていたエイブラハムからすれば、此れは良いチャンスとしか思えなかった。 満足そうに手を振り、堂々と捜索を開始し始めた。 が、当のアルナはと言えば、町長宅近くの集会所に隠れており、青年団の会議中だとと言ってあるのでエイブラハムは近づけない。 狂気の断罪官は到底、標的を見つけられない状況なのだ。 だが、そんな事等知る筈も無いエイブラハムは、再び目をギラつかせて町中を徘徊している。 「…上手くいきますかね?パックさん。」 「さあな。だが、どちらにしろ、時間さえ稼げればエスタが帰って来る。あいつが居ればきっと勝てるさ。」 「そうですかい?いくらエスタでも相手は鎧剣使いの断罪官ですぜ?」 「…大丈夫さ。其れよりベンジャミン、お前もそろそろ配置に戻れ。あの場所に何時あいつが行くか分からないんだぞ?」 「え、ああ、はい!では…」 パックはある作戦を立てていた。 必ずしもエイブラハムが其の場所まで行くかは分からないが、町の奥に怪しい小屋を急いで作らせた。 其の中に標的が入ると同時に入り口を封鎖し、閉じ込めるのだ。 急いで作らせただけあって小屋は脆いが、直ぐに弓隊で包囲し、窓から降伏を促す。 其れで降伏すれば良し、しなければ矢の嵐を浴びせるだけだ。 どうせ死刑に成る犯罪者、殺してしまっても問題は無い。 確かに断罪官、しかも鎧剣使いとして有名なエイブラハムは強い。 だが所詮は人間、首を落としても、心臓を射抜いても死ぬのだ。 「だが…此れで失敗すれば我々は助からないだろうな…しかし!やらなければいけないんだ!やらなければ…何れは集会所も調べられる。  そうすればアルナは助からない!守らなきゃ…俺は…何でもやってやるさ!」 覚悟の町長代理。 しかし、彼は甘かった。 異能者の恐ろしさをあまりに過小評価してしまっている。 鎧剣使いとしてはまだまだ未熟のエスタの実力すら、彼は分かっていない。 彼の考える異能者は、エスタの足元にようやく届くか届かないか程度でしかないのだ。 そしてアルナが逃げ込んでから30分。 時は来た… 「パックさん!やりました!あいつが小屋に向かっています!」 パックが(部下として)最も信頼しているベンジャミンからの連絡があった。 最良の結果だと町長代理の青年は思った。 直ぐに走り出した。 妹に最後の挨拶もしないで… 「どうだ?」 「あ、あそこですよ!」 現場に到着したパックが見ると、エイブラハムは今にも小屋を調べようとしていた。 「思ってより入念に調べていますね。やはり露骨過ぎたでしょうか?」 「かもな…だが、見ろ!入るぞ…」 何処までも怪しい小屋に、剣を抜いた男は入って行く… そしてドアが閉まった瞬間、周囲に伏せていた男達が集まり、扉を封鎖した! 「!?」 異変に気付いた狂気の男だが既に扉は固く閉じ、全ての小窓からは矢が覗いている。 嵌められた。 そう彼は思った。 が、もう一つ思った。 笑える。 こんな辺境の一般人が、此の程度の包囲で自分に勝つつもりでいる。 滑稽で仕方が無い。 無知とはこんなにも笑えるものなのか? 「クク…ワッハッハッハ!」 「な、何だ?笑ってやがるぜ…」 「構うものか!もう降伏はしないだろう…殺っちまえ!」 ベンジャミンの合図で弓を構えていた全員が矢を放つ。 「どうだ!やったか!?」 「さあ…どうで…」 「!?」 指揮していたパックとベンジャミン。 二人が見た物。 其れは砕ける大地と砕ける男達。 小屋は全くの無傷だと言うのに、周囲の全てが壊され、血の雨が降り注いだ… 「な…何だ…アレは…」 「あれが鎧剣…!!」 地面から生えていた刃の様なモノが消えたかと思うと、何事も無かったかの様に小屋のドアが開いた。 ゆっくりと姿を見せる血塗られた断罪官。 凍る場。 血溜りの中、呆然とする二人の青年。 「中々楽しい余興でしたな…さて?」 「…ベンジャミン、アルナを頼めるか?」 「…パックさん?」 「頼む。うおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」 剣を抜き、単身突っ込むパック。 余裕のエイブラハム。 後ろを見ない様にして走り出すベンジャミン。 ほんの数秒後、ベンジャミンの首は、パックの内臓に顔を埋めていた… ―集会所 「お兄ちゃん…大丈夫かしら…」 一人、暗い集会所の奥で小さくなっているアルナ。 パックとは此処に隠れさせて貰ってから会っていない。 集会所を守っていた男達も、少し前に出て行ってから帰って来ない。 何が有っても出てくるなと言われているが、気になって仕方が無い。 今、外では何が起こっているのだろうか? そして、此のお嬢様の悪い癖がまた、発動しようとしていた… 「何…此れ…」 三度好奇心で失敗したお嬢様。 外に出ると、其処は地獄であった。 人々は誰もがズタズタに引き裂かれ、大地は割れ、家屋は崩壊し、一面どす黒く染まっている。 「あ…ああ…私の…私の所為だ!!」 どうにか暴走を抑え、震える足腰を無理矢理動かし、町の出口を目指す。 兎に角逃げるしかない。 今は悲しんでも、怖がってもいられないのだ。 そして入り口近く、愛しいエスタの家に差し掛かった其の時、ついに逢えた。 少し前までは、見てしまった恐怖から避けていた彼だが、今は一番会いたかった。 恐怖も何も和らげてくれる…エスタ・リーガン、愛しい人… だが、彼の顔はどうしてだろう?愕然としている様だ? 何故だろう? ふと、自分の体を見てみた。 するとどうだろう、腹から何かが生えている。 真っ赤の中から少しだけ見える銀色。 ああ、此れは剣だ。 そうか、私、見つかっちゃったんだ… そう気付くと、アルナ・レットは地に伏せ、もう動かなくなった… 「ヒヒッ…やったぞ…!!ついにやったァ!!ヒャハハハ!俺を邪魔する奴はもう居ねェよ!ギャハハハハハ!!」 「…アルナ?…ンのヤロォォォオ!!!!!」 目的を達成して狂喜に咽ぶ男と、目的を達成出来ずに怒り狂う男。 二人の異能者が出会ってしまった。 それも、最悪の状況で。 「ああ?未だ居たのかァ?俺の邪魔するヤツはよォ…うぜえなあ!うぜえなあ!!何でどいつもこいつも邪魔するかなァ!?」 新たな邪魔者に再度激昂する狂気の男。 最早、二人は互いを殺す事しか考えていない。 こうして、最悪の戦いが始まった… 続く